小悪魔agehaが流行っていた時代、小学生のなりたい職業ランキングでキャバ嬢が上位にいた時代、多分に漏れず私も憧れた。
知り合いの紹介ということで地元の小さなキャバクラで働かせてもらった事がある。私が単体で面接に行っても不採用だったと思うが、そこはほら、紹介なので。
週に2日しか出勤しないし、学校の卒業までという約束で入り1年も在籍していなかった。
実際に働いてみて想像と違ったのは、まずキャストの女の子はみんな優しいということだ。
もっと派閥とか成績上位者には逆らえないような決まりがあるのかと思っていたけれど、全くそうではなくて。
みんな程よい距離を保っているように見えた。まさしくビジネスライクという感じ。
同じテーブルに着けば一緒に盛り上げなくてはならないし、酔った人に失礼な事を言われるような経験も同じくしている。自然と仲間意識が芽生え協力的だった。
それでもナンバー1~3位はさすが別格!!という雰囲気があったけれど。
その代わり?と言っていいのか分からないが、スタッフさん達との距離感は果てしなく遠かった。
マネージャーやオーナーはよく女の子達に労いの声をかけてくれたり、笑い話をしてくれたりもしたが、厨房の方やホール内でドリンクを運んできてくれる方達は皆よそよそしい。
私は慣れないドレスやヘアメイクをしてもらえるのが嬉しくて、そのために働いているようなものだった。
今にして思えばそんな浮ついた気持ちでテーブルについて本当に申し訳ありませんでした。
学んだことは“気づかい”とは奥が深いという事と、知らない人と話をするのは本当に難しいという事だ。相手がこちらに対して好意的でなければ尚更。
私はそこまでひどい事を言われたりはしなかったけれど、あからさまに背中を向けられてしまったり、名刺を受け取ってもらえず困ったことはある。
私の未熟さ故、仕方ないと思う時もあれば、席に着いて一言目に「俺、水商売の女って嫌いなんだよ」と言われると「この人ここに何しに来たんだろう」と不思議に思う事もあった。
嫌いな水商売の女がいるお店に来て、お金を払って、文句ばかりつけて帰っていく。
なぜわざわざそんな不愉快なことをするんだろう、と。
それでも「私も一杯頂いて良いですか?」と聞けば断られる事はなかったので、なんだかんだお客さんは優しい。
お酒の席は今も苦手だけれど、時々あの夜たちを思い出す。
テーブルのグラス、銀色のアイスペール、スタッフさん達と交わすハンドサイン、タバコの匂い。
送りの車内のエアコンの風、疲れて眠る隣の女の子のネイル、夜更かしで疲れ切った体、名刺、ライター、アルコール。
適材適所という言葉で考えると、間違いなく私は不適材だった。それが分かっただけでも大きな収穫だ。
今振り返ると、自分があの空間にいた事が不思議になる。
夢だったんじゃないかな。なんてね。